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パエリアにガスパッチョ、生ハム、コシード、子豚の丸焼き・・・。
気取らない普段着のスペインから、ちょっとおしゃれなスペインまで。
マドリッド在住二人の日本人女性が贈る、スペイン 食の魅力。
   
 
 
   
 
鱈のクリームコロッケ
 

スペインの春といえば、バレンシアの火祭りから始まり、聖週間(イースター)、セビリアの春祭り、マドリードのサイン・イシドロ祭りとお祭りごとが目白押し。春が近づくにつれてなんだか自然にわくわくしてきます。

 

今回取り上げるのはカトリック教徒ではない人たちにとっては馴染みの薄い聖週間。スペイン語ではセマナ・サンタといいます。スペインの日常は思った以上に宗教と強く結びついており、食生活もまた、宗教にちなんだ伝統を受け継いでいることが多々あります。
では、この聖週間の食生活とは一体どうなっているのでしょうか?

   
 
 
     
   
 

■肉抜きの料理≪ビヒリア≫
聖週間とはイエス・キリストの復活を祝う日曜日までの、キリストの最後の受難の一週間を 再現する週です。「復活の主日」が春分の日の後の最初の満月の次の日曜日に当たるため、毎年日付が変わる移動祝祭日。この週の一ヶ月前頃からレストランでは”○○・デ・ビヒリア“、といったあまり聞きなれない”ビヒリア“という単語が使われるメニューが多く目に付き始めます。

   
 
 

この”ビヒリア”とは”肉抜きの料理”を意味し、通常肉類が使われる料理に、肉の代わりに魚を使用したメニューが多く見られるようになります。中でも代表的なのが”ポタヘ”と呼ばれる豆類を煮込んだスープ。ヒヨコマメや白インゲン豆の煮込みスープは、普段はチョリソなど腸詰や鶏肉、牛肉、生ハムの塊と煮込むことが多いのですが、代わりに魚を使ったものが“ポタヘ・デ・ビヒリア”です。

ヒヨコマメとほうれん草、鱈の煮込みスープ 最も典型的な“ポタヘ・デ・ビヒリア”
   
 

■金曜日は肉抜き?!
ではなぜこの時期になると肉抜きの料理が多くなるのでしょうか?
それを語るには、四旬節(キリストが40日間の断食修行をした期間)の前のカーニバルまでさかのぼります。カーニバルといえば断食を前に食いだめ、遊びだめをするため、ドンちゃん騒ぎを許された四旬節前の3−8日間。ラテン語のカルネ バレ(carne vale肉よ、さらば)が語源であるといわれています。
カーニバルが終わり、四旬節に入ると、伝統的な食習慣では金曜日にはお肉類は食べません。そのためこの時期の食卓の主役は魚類です。特に鱈を使う料理が多いのですが、スペイン北部のバスク人が「良きカトリック教徒は鱈を食べよう」といったキャンペーンを行いそれが定着し、今に受け継がれているということです。
中でも特に聖金曜日(「復活の主日」の直前の金曜日)には腸詰類を含むお肉類を口にしないことが、カトリック教徒の伝統的な食習慣となっています。普通の家庭でこの伝統を厳格に守っているところは少なくなっていますが、それでもこの時期の金曜日になると「あっ、今日って金曜日だった」と意識してしまいます。

 
 

白インゲン豆とアサリ貝の煮込みスープ。 鱈の代わりにアサリ貝を使った ちょっと変り種の“ポタヘ・デ・ビヒリア”

 

   
 
 

■いつでも食べれるお菓子
またこの時期は甘いお菓子類も主役です。中でも代表格に“トリハ(torrija)”という、フレンチ・トーストのようなものがあります。もともとは硬くなったパンを手軽に経済的に利用するために考え出されました。朝食に食べる人もいれば、ちょっとしたオヤツにもなる人気者です。

   
 
 

このお菓子がなぜ聖なる時期、聖週間と結びついたかの由来は、中世にまでさかのぼります。正確な発祥の起源は定かではありませんが、修道院で余ったパンを使ってトリハを作ったことに始まるそうです。
カトリックの教えによると、パンはキリストの肉体を表しますが、硬くなってそのままでは食べられないパン、つまり死んでしまったパンは、この聖週間の時期に磔刑にあったキリストの死んだ肉体を表しています。

 

トリハはパンを砂糖、シナモンを入れた牛乳に浸し、溶いた卵で衣をつけたものを揚げたものですが、牛乳と卵に浸すことによりキリストの復活を表し、油で揚げる行為がキリストの受難を表していると解釈されています。このようにトリハは死んだパンの復活ととらえられ、聖週間と同じくキリストの生と死、受難と復活を象徴していると考えられるようになり、この時期に欠かせない、聖なるお菓子とみなされるようになったそうです。 今では一年中食べることができるトリハにそんな意味があったのかと思うと、感慨深い思いになります。とは言っても、この時期に甘いものが多く食べられるようになったのは、「お肉類が食べられないのだったら代わりに甘いもので我慢しよう」という一面もあったようですが・・・。

   
 
 

この時期好んで食べられるお菓子をもうひとつ。ペスティーニョスという名前で、パンではなく小麦粉がベースのアラブ起源のお菓子。たっぷりの蜂蜜で覆われた甘―いお菓子です。キリスト教のイベントにアラブ起源のお菓子がよく食べられてい るというのは面白いですね。おいしいお菓子は宗教の違いをも超えてしまうということなのでしょう。

 

   
   
 
 

この時期のアンダルシアのバルの内装 聖母マリア像のポスターがいっぱい 聖週間の雰囲気を盛り上げます

     
 

「金曜日には肉を使った料理は食べない。」知らなくても何事もなく過ごすことができる伝統的な食習慣ですが、知ってしまうと気になってしまうもの。カトリック教徒ではない私でも、なんとなく意識してしまいます。思い出したときにはもう手遅れっていうこともよくありますが・・・。 近代化の波が押し寄せているスペイン、その一方で伝統を重んじ、後世に伝える必要性も忘れないところに、多くの人を惹き付ける魅力があるのかもしれません。

   
 

この聖週間が過ぎると、スペインでの話題は夏のバケーションをどこでどう過ごすかに移ります。少し感傷的な聖週間の後は、心機一転、夏に向けての準備が始まります!

   
   
   
   
   
   
   
   
   
  取材:山田 さつき
   
 
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