セバスチャン・グラヴェ氏
お店の窓に描かれた魚
−最初は甘いものから初めて、お魚を調理することになったんですね。 シュクレ(甘いもの、パティスリーのこと)は静寂の中の作業だけど、サレ(塩味、転じて料理のこと)はもっとスピード感のある仕事だ。料理は速さと正確さが求められるからね。僕はその方が好きなんだ。チームでできるし、バスク人のご多分にもれず僕もラグビーファンだから。
−バスク地方で育ったからお魚が得意なんですか? 魚のことはよく知ってるよ。今は減ったけどマグロもあったし、バスクでは昔、クジラも捕ってたんだよ。穫れたてのホタルイカなんか最高に美味しいね。サバのエスカベーシュも母がよく作ってくれた。でも、パティスリーをしていた僕に魚料理を、とアドヴァイスしてくれたのはル・ロランのフィリップ・ブランだった。
−マカオにも行かれたそうですが、いかがでしたか? ホテルのオープニングだから、トリュフとか高価な食材がふんだんに使えてとても勉強になったよ。ボイルしたオマールを大鍋から取り出すとき、僕らがふだん使う水切り用の入れ物がなくて、中国人がそれを箸で取り出すのには驚いてしまった。
−日本の包丁はよく切れますが、ご存知ですか? もちろん。前に厨房で一緒だった日本人がお土産に持ってきてくれたから僕も持ってる。包丁自体もすばらしいけど、彼らは包丁の手入れもするんだね。道具を大事にする姿勢には頭が下がる。日本料理の伝統からだろうけど、日本人のキュイジニエはとても優秀だ。ぼくは日本に行ったら、日本料理からいろいろ学びたいと思っている。
−日本の会席料理は本当に美しいですが、フランス人はボリュームがないとダメですよね。 そうだね。星をもらってから客層が変わって、今は50%が外国人だけど、僕もしっかり食べたい方だから、ボリュームは外さないようにしたいと思う。新鮮な食材が手に入るから、それにあわせてメニューを考える。
−どういうお魚がおすすめですか? 毎晩、ブルターニュの業者から電話が入るから、それに寄ってだね。旬の素材が一番だから。
来日したら築地の魚市場を訪ねるのを楽しみにしているセバスチャン。フランスのテレビでもすでに何度も紹介され、業界人にとってはメッカのような場所である。パティスリーからキャリアを始めた彼は、日本料理の美を評価しつつ、それにもまして食材や包丁さばきなどの技にも関心を寄せている。
シックでモダンなインテリア。たった24席のビストロに、シェフを入れてキュイジニエが5人、ホール担当が2人、ダヴィッドを合わせると8人だ。ビストロと言ってもお皿の中身もサービスも一流料理店並みなのだ。それは毎日手書きで示される黒板のメニューを見ても想像できる。
トルトゥー蟹のジュレと赤かぶのクリームアボガドポルト酒づけ、スズキの切り身とポテトのピュレバジリコ風味イバイオナの三昧肉添え…etc。 「僕は魚づくしで満足する気はないからね。肉と魚を組み合わせてみたよ」
イバイオナ(Ibai¨ona)とはバスク豚のこと。バイヨンヌは言わずと知れた生ハムの名産地だが、貴重なイバイオナがホタテやスズキと同じお皿にお目見えするのである。この意外な取り合わせはグルメの脳と胃を刺激し、目を楽しませてくれることうけあいだ。
セバスチャンが特別に作ってくれた今日の一品。
リユウの切り身カリカリベーコンのせ、なすのグラタン詰め、パルメザンチーズと小さなヤリイカのフリカッセ
(第1回了)
文:工藤瞳 写真:新村真理