■ #041 スペインの熱狂、ワールドカップ。テレビ観戦派の人達の食事。

4年ごとに開催されるサッカーの世界選手権、FIFAワールドカップ。32回目となる今回、スペインが念願の初優勝を果たしました。早く正確で複雑なパスワークを駆使し、世界で一番美しいサッカーをすると言われるスペイン代表チーム。親善試合や予選では負けなし、毎回のように優勝に最も近いチームと呼ばれながら肝心の本選になると何故かコロッと負けてしまう。だから2008年の欧州選手権、ユーロカップでスペイン代表が勝ち続けた時も、期待すると後でまたがっかりするから本当は期待なんかしたくないんだけれど、何だか勝っちゃいそうな気がする、なんて遠まわしな期待をしつつスペイン代表を見守り続けたスペイン国民。だからこそ優勝が決まった時の熱狂ぶりは凄まじかった。あれから2年、今回はユーロカップよりもずっと格が上のワールドカップ、そしてここ数年負けなしの輝かしい成績も手伝って国民の期待はいやがうえにも最高潮に達しました。まさかの初戦、黒星での発進もスペイン国民は落ち着いて受け止め、以前のような半信半疑ではなく、絶対の信頼を持ってスペイン代表を応援していたように思えます。

長い予選の段階から国中の関心を集め続けたワールドカップ、試合がある日は街中から人が消え去りました。惜しいプレーに思わず出る溜息が重低音でマンションを揺らし、点が入れば皆競ってベランダに飛び出し、見ず知らずの隣近所の人達と雄叫びを交し合う。例え自分の家でテレビ中継を見ていなくても、隣近所の反応で試合内容が完璧に把握出来るほどでした。
本選に入り更にスペイン代表が勝ち続けると、各街の広場に大型スクリーンが設置され、首都マドリッドでは25万人規模の人達がスクリーンの前に集まりスペイン代表を応援しました。

まさに熱狂のスペイン、街中の建物、ショーウィンドー、各家庭のベランダ、車やバス、タクシーのアンテナ、至るところにスペイン国旗がはためきました。応援するスペイン人達も代表のチームカラーである赤をベースにスペイン国旗をマントのように肩にはおるのが基本スタイル。テレビのニュースでは国旗を作る業者が増員し、寝る間も惜しんで機械を動かし続けているのにもかかわらず生産が全く追いつかない、なんて嬉しい悲鳴をあげていました。

最終戦のテレビ視聴率は85,9%。スペイン史上最高の視聴率ですが国民の大熱狂ぶりを目の当たりにしていると何だか少ない数字のようにも思えます。お祭り好きのスペイン人達は大人数でバーやレストランで観戦するか、各街に設置された大型スクリーンの前に集まる事を好んだので、家でテレビ観戦する人達は案外少なかったのかもしれません。
キックオフは20時半、一度試合が始まってしまうと熱中し過ぎて食べる事もままならないので、場所取りもかねて試合開始2時間位前からバーやレストランに集まります。テレビは朝からずっとワールドカップ生中継状態なので、繰り返し放送される過去のゴールシーンをさかなに腹ごしらえ。ウエイターやコック達も皆同じスペイン国民ですから誰だって試合が見たい、だから試合中は暗黙の了解でオーダーストップ。試合前に頼めるだけ食べ物と飲み物を注文しておきます。だからサッカーのテレビ観戦中に好まれ食べられるのは生ハムやソーセージ、チーズなどの冷たい系食べ物。手元を気にする事なく食べられる一口サイズのオープンサンドも大人気です。サッカー観戦中は視線が完全にテレビに奪われるし、頭を抱えたり、飛び跳ねたり、スペイン人はいちいちリアクションが大きいので熱い汁物なんかが机の上にあったら大変危険ですから。

カニカマと玉ねぎ、ゆで卵をマヨネーズであえたもの。

ジャガイモと玉ねぎがたっぷり入ったスペイン風オムレツでシーチキンのガーリックマヨネーズあえを挟んだもの。

半分に切ったアボガドの上に、海老、ムール貝、カニカマ、ゆで卵のカクテルソースあえをのせたもの。

クリームチーズの上にカリカリにあげた生ハムを散らし、蜂蜜ソースをかけチェリートマトをのせたもの。

柔らかくてジューシーなイベリコ豚をニンニクでソテーし、ピリ辛のグリーンソースをかけたもの。

ラズベリージャムの上にブルーチーズとカマンベールチーズをのせてオーブンで焼いたもの。

むき海老をオリーブオイル、ニンニクと唐辛子で炒めチーズをのせて焼いたもの。

オーブンでじっくり焼いた赤ピーマンに牛乳と小麦粉で作るホワイトソースでからめた白身魚を詰めたもの。

ワールドカップの最終戦でスペイン代表のイニエスタがゴールを決めた瞬間、地響きのような歓声がスペイン全土を揺らしました。老若男女誰もが狂喜し、飛び跳ね、抱き合い、爆発的な大騒ぎとなりました。試合が終わってもスペイン国民の熱狂は収まることを知らず、車やバイクでスペイン国旗をはためかせながらクラクションを鳴らしまくり街中を走り周ります。夜中の12時に交通機能がマヒする程の大渋滞が起こりました。そして徒歩の人達は奇声をあげ歌いながら各街の噴水に集まります。噴水に飛び込む人達、花火を打ち上げる人達、ラッパや太鼓を鳴らし、歌を歌う人達、そんなお祭り騒ぎは夜中の3時頃まで続きました。
翌日もお祭り騒ぎは続きます。スペイン代表チームが帰国し、オープンカーの二階建てバスで首都マドリッドの中心5kmをパレードするからです。人口325万人のマドリッドで250万人もの人々がスペイン代表選手を祝福しにパレードへ駆けつけました。街中が真っ赤に染まった一日でした。
サッカーのある日にスペインを訪れたら、是非バーに寄ってみて下さい。喜怒哀楽の感情豊かなスペイン人達を観察しながら種類豊かなオープンサンドを味わって下さい。でも大事な試合の時は試合開始前に全てのオーダーを済ませておくのを忘れずに。
取材:市川由美
